2022.08.30

事例で見る「商品ブランディング」のテーマ別ポイントについて(2)

山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

事例で見る「商品ブランディング」のテーマ別ポイントについて(2)

本コラムでは商品ブランディングのテーマ別のポイントを、2回に渡って事例を交えてご紹介していきます。1回目となる前回のコラムで、テーマ分類について以下のように定めました。現在みなさんがお持ちである商品ブランディングの課題も、この4つの状況のいずれかに当てはまると思います。

[商品ブランドのテーマ分類]
(A)新ブランド開発テーマ
(B)既存ブランドにおけるサブブランド開発(ブランド拡張)テーマ
(C)既存ブランドのリニューアルテーマ
(D)商品デザインのリニューアルテーマ

そして前回は、(A)の新ブランド開発、(B)の既存ブランドのサブブランド開発、この2つのテーマについて事例を交えてポイントの解説をしていきました。2回目となる今回は(C)既存ブランドのリニューアルテーマ、および(D)商品デザインのリニューアルテーマについて引き続きご紹介していきたいと思います。

「売れ続ける」ブランディングに、リニューアルは不可欠

今回ご紹介するのはいずれも、ブランドやデザインを「リニューアル」するといったテーマとなりますが、そもそもなぜリニューアルを決定するに至ったのか。各ブランドの状況によって違いがあると思いますが、おおよそ次のような理由ではないでしょうか。

 製品仕様が変わったから
 年数が経ちデザインやコンセプトが古くなったから
 売り上げが落ちてきたから

また最近では、世界情勢の変化による原材料の高騰や円安が続いており、それを背景として、様々な商品の仕様変更や値上げがニュースになっています。各社が商品パッケージなどのリ・デザインを決める理由としてこの「価格改定」も大きな要因となっており、値上げで顧客が離れないように改めて商品の魅力や価値を「伝え直す」、または「再認識してもらう」ことを目的に、デザイン変更を行うケースが多くあります。

あらゆる業界において急速にコモディティ化が進んでいるのはご承知の通りで、価格競争も激化し消耗戦を強いられています。また、社会の変化に伴って商品ブランドが置かれている状況や、消費者の価値観も急速に変化する時代。そのような現代でブランドに必要なのは「売れ続ける」ための仕組みづくりです。まさにこれがブランディングであり、特に時代に合わせて既存の商品を変更していくというリニューアルは、ブランディングの中でも大きな役割を果たす施策と言えます。

リニューアルは、新ブランド開発よりも難しい

新ブランドの立ち上げは企業にとって大いなる挑戦です。ただゼロからストーリーを作ることが可能であり比較的自由でもあります。しかしリニューアルの場合は「既存ブランドの再活性化」が課題です。リニューアルをした結果、以前に比べて売り上げやイメージを下げてしまっては意味がありません。既存顧客に十分な配慮をしつつ新たな顧客にもアピールが必要なので、非常に慎重に多くの検証を重ねていく必要があります。私個人的には、リニューアルは「新ブランド開発より難しい」と思っています。

そんなリニューアルテーマを効果的に進めていくためのプロセスについて、TCDでは[図-1]のような流れで実施します。リニューアルの基本的な方針を決めるためにも、まずはブランドの現状を調査し、課題を正しく把握することが重要です。市場は常に変化していますので、その中での優位性がどう変化しているのか、ブランドイメージは保たれているのか、などといったことを把握した上で、コンセプトや商品仕様から見直すべきか、商品パッケージなどのデザイン調整をすべきか、ブランドコミュニケーションの強化が課題なのかを判断していきます。

(図−1)商品ブランドリニューアルのプロセス
(図−1)商品ブランドリニューアルのプロセス

商品ブランドのリニューアルテーマ事例と開発ポイント

それではここから事例を交えて、各テーマのポイントを簡単に解説していきたいと思います。

(C)既存ブランドのリニューアルテーマ

ブランドリニューアルは、「時代に合わせた調整」と「思い切った変更」のいずれかの方向性に分かれると考えられます。「思い切った変更」を必要とするケースは、現状から大きな飛躍を目的としたリニューアルであり、ターゲットやポジショニングの変更、ストーリーや提供価値の見直しなど、ブランドコンセプトを大幅に変更するケース。まさに「ブランドの大手術」の様なものです。以下にご紹介する事例もその1つになります。

ヤヱガキ酒造株式会社「やえつむぎ」

「やえつむぎ」は、ヤヱガキ酒造株式会社が1666年の創業から長年の酒造りで培ってきた伝統の発酵技術をベースに、最新技術を掛け合わせて生まれた発酵食品を中心としたブランドです。リニューアル前は「ヤヱガキ健康逸品」として2004年から販売。メインとなる商品は、兵庫県独自の黒米「紫黒米玄米」を使用した「紫黒米健康酢」(下図)で、そのまま飲めるフルーティな味わいと、豊富なポリフェノールやクエン酸、18種のアミノ酸などたっぷりな栄養が特徴。そして、米糀や甘酒などの発酵食品や玄米などをラインナップしています。

リニューアル前のブランドロゴとパッケージデザイン
リニューアル前のブランドロゴとパッケージデザイン

商品自体は納得のいくものに仕上がっているものの、現状のブランドコミュニケーションでは、このブランドの思いや良さをきちんと伝えきれていないのではないかということでリニューアルを決定し、TCDにご相談いただきました。一番の課題は、既存顧客により高い満足を感じてもらい、且つ、新しい多くの人に利用してもらう、特に若い人の生活に取り入れてもらうことが必要であり、まずは発酵食品や同社の歴史と実績、他社の動きなどを調査し理解を深めつつ、そのポテンシャルについて議論していきました。

健康を考え、身体に良い行いをしたいと思うのは何も中高年ばかりではなく、そういった考えを積極的に取り入れようとする若年層の動きもありました。また、発酵食品が身体に良いことずくめであるといったことが、メディアなどでもたびたび取り上げられています。そういったことから、「健康になる」ということを大上段に構えるのではなく、ナチュラルな食材を生活に無理なく取り入れながら、自分らしく豊かな生活を送りたいと考える人をターゲットと捉え、共感を得られるコンセプトやストーリーを再設計していきました。

現在のブランドのロゴとパッケージデザイン
現在のブランドのロゴとパッケージデザイン
現在のブランドのロゴとパッケージデザイン

そして、毎日少しずつ体に良いことを積み重ねていくことの重要性を、「日々積み重ね、紡ぐ毎日」という言葉で表現。ネーミングも「健康」という言葉を敢えて入れず、「(良い行いを)数多く重ねて(自分らしい生活を)紡いでいく」という意味から、「やえつむぎ」に決定しました。ブランドロゴは漢字の「一(いち)」を幾重にも重ねた造形で、一つ一つの行いを丁寧に重ねていくことを表現。パッケージに施された模様の様なブランドエレメントは、その一つ一つの行いが「糸」を紡ぎ、織りなす「布」が、ユーザーの生活を豊かに包みこむ…、そんな意味を込めてデザインされています。同時に様々なメディアもリニューアルされました。

2020年10月に現在の形に大幅リニューアルされた同ブランド。以前から、通信販売ならではのきめ細やかなサポートや情報発信を通じて、顧客との良好関係を築いてきた同ブランドですが、アンケートなどで聞こえるリニューアル後の反応も上々の様です。これからも「やえつむぎ」は「発酵のすばらしさをもっと多くの人に伝えたい」という思いのもと、栄養分を補う健康食品ではなく、普段食べているものを置き換えることで身体を整え、より良い毎日へと導く食生活を提案していきます。

サイトやツールデザイン

(D)商品デザインのリニューアルテーマ

前述のやえつむぎは「思い切った変更」をしたリニューアルでしたが、一方で「時代に合わせた調整」とは、どういうものか。

商品が発売されて数年経つと、発売当初からの市場状況が大きく変化する事は少なくありません。特にスーパーやドラッグストアなどで売られる日用品や食品などについては、季節ごとに各メーカーから新製品やリニューアルされた商品が数多く投入されるので、去年までは店頭で他社を圧倒していた商品が、今年は隅に追いやられるということもしばしば。消費者の関心を引き付け、比較優位性を維持するためには、市場の変化に合わせた定期的なリフレッシュが必要です。

小林製薬「Sawaday香るスティックPARFUM」

「さわやか、サワデ〜♪」というCMで皆さんにもお馴染みの、小林製薬株式会社の「Sawaday」は、1975年にトイレ用の芳香消臭剤として誕生したロングセラーブランド。現在では「香りで生活を演出するブランド」として、リビングや玄関用、車用などの様々な用途に拡張し、今なお市場を牽引し続けています。なかでも近年ヒットしているのが「Sawaday香るスティック」という、スティックタイプのルームフレグランス。スティックタイプは一昔前はインテリアショップなどで高級ルームフレグランスとして目にすることがあるくらいでしたが、現在では芳香剤市場の主流となり各社から多くの商品が販売されており、一般的なお店で手軽に買える身近な存在になりました。

Sawaday香るスティック

今回ご紹介する「Sawaday香るスティックPARFUM(パルファム)」は、ブランドの中でも特に高級感のある香水調の香りが特徴のシリーズ。発売当初より、これまでにない香りの趣向性とシンプルな製品デザイン、そして、華やかな印象が多い芳香剤のパッケージデザインとは一線を画したモノトーンのデザインが注目を集め、売り上げも好調に推移していました。ただ各社からもスティックタイプの新商品が続々と投入され、さらに市場は活性化したものの、優位性を維持するためにはテコ入れが必要となってきました。

上が旧デザイン、下が現在のデザイン
左が旧デザイン、右が現在のデザイン

こういったデザインリニューアルで重要なのは、何を継承し、何を刷新・付加すべきかを決めること。売り上げが好調なので、大きく変化させることで顧客が離れてしまうことは避けなければいけません。しかし一方で、消費者に改めて魅力を感じてもらえる変化が必要です。そこで、ブランドロゴやモノトーンで上質感のある雰囲気は継承しつつ、改めてこの商品の魅力として何を伝えたいかを考える中で、製品デザインの「上質感のある佇まいと、そこから感じる本物感」が他の芳香剤との違いであることに気づき、旧デザインではシンプルなイラストで表現していた製品イメージを、パッケージデザインの主役として堂々と表現することに決まりました。そして今現在も、店頭の中心商品の一つとして皆さんの目に触れていることと思います。

パッケージデザインを5つのポイントで見直す

Sawadayの事例でもご理解いただける様に、私たちがパッケージデザインを開発するにあたって重視しているのは、店頭で目立つことや特徴をわかりやすく伝えるといった短期的な機能面だけでなく、「ブランドの資産となれるか」ということ。あらゆる市場において、パッケージデザイン自体がブランドイメージの象徴的存在になっていることは少なくはありません。ですので余程の理由や狙いがない限り、リニューアルのたびにコロコロとイメージを変えてしまうのは効果的とは言えません。中長期的視点を持ち、ブランドの象徴となり得るようなパッケージデザイン開発が理想です。

そのポイントとして、TCDでは以下の5項目を検証しながら進めていきます。新製品はもちろんですが、リニューアルする際のチェック項目にもなると思いますので、以下参考までにご紹介します(図-2)。

(図−2)パッケージデザイン開発の5つのポイント


以上、2回にわたり商品ブランディングについてご紹介してきました。皆さんがお持ちになられている課題に、少しでもヒントになれば幸いです。(完)

[筆者プロフィール]

山崎 晴司

株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。

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